有島武郎『一房の葡萄・小さき者へ』、朗読:萬田久子

41kTH55eUZL._SX300_

名作を聴くシリーズ。有島武郎版。

萬田久子さんの朗読です。力がこもりすぎず、さらっと朗読されていて、めちゃくちゃ上手!というわけではないと思いますが、全くひっかかりがなく最後まで聴くことが出来ました。

『一房の葡萄』はこれといった面白みのないお話ですが、『小さき者へ』は非常に心打たれる独白です。

『小さき者へ』は小説ではありません。これはどういうジャンルなんでしょう。自分の三人の子供へ向け書かれた、父による、真実の言葉の贈りもの。多少格好つけたり、衒いはあるでしょうが、嘘偽りのない、同時に仮借のない言葉。

自分の子供に向け、お前達は不幸だ、回復の見込み無く不幸だ、不幸な者よ、と呼びかける。しかしこの不幸こそがお前達の力だ、この不幸によって気づかせてくれるものがある、くじけるな、という風に呼びかける様は痛々しい。

自分の子の誕生や、旗印を定めないまま陥った境遇を呪ったことがあると吐露する父。人は決してアプリオリに善人ではないし、そう思うのは間違いではなくて、まわりを見回しても、当たり前のことだ。

さらに、死に臨む母の想像を絶する心構えは、どこまでも悲しい。母の、幼子に及ぼす死の影響を考慮し、自分の死を見せまいと、あえて孤独な生活に身を窶す決意の固さは、驚嘆すべきものがあります。それは非常に悲しい決心です。

しかしながら、この贈られた言葉は、愛と真実に満ちています。嘘がなさ過ぎて残酷だと言う人もいるかもしれない。父の自己満足と言う人もいるかもしれない。ですが、自分の父がここまで正直に、結婚当初の想いや子が生まれた時の気持ち、母が亡くなる際の苦しみを、子に告白したことがかつてあっただろうかと思います。

『小さき者へ』を読んだ子らは、自信をもって、恐れず人生に立ち向かえると思う。なぜなら、父も母も、自身の人生に立ち向かったことがよく解るからです。この後、有島武郎は新たな恋人と心中を遂げてしまいますが、彼の足跡は信念に一途ということが分かる。姦通罪もあった時世ですから、心中も致し方ない。

その子の一人、森雅之は、三船敏郎と並び、日本映画を代表する俳優として大成しました。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中